大島紬研修旅行~鹿児島~
大島紬研修旅行
2016.11.20~11.21
東京和装専門学院、講師研修旅行のレポートをお届けします。今年は大島紬の勉強のため鹿児島県に行ってきました。
大島紬とは
経済産業省が定める伝統的工芸品の大島紬とは
・絹100%であること
・先染め手織りであ紬のこと
・平織りである事
・しめ機で手作業により経糸および緯絣を加工したもの
・手織で経絣および緯絣を絣合わせして織りあげたものであること
平織りとは、経(たて)糸と緯(よこ)糸を交互に織っていく組織のことです。
絹100%なので、織るときに「きゅっきゅっ」と音がします!
大島紬の特徴は
・独特の渋みと色合い
・軽くて着崩れしにくい
世界には様々な種類の織物が織られていますが その中で最も優れている織物が フランスのゴブラン織り、ペルシャ絨毯、そして大島紬といわれています。
本場大島紬窪田織物株式会社
今回は鹿児島大島紬の織元、窪田織物さんに大島紬ができるまでの工程をご説明いただきました。
おおまかな行程は、図案→整経(せいけい)→糊張→絣締(かすりじめ)→染色→目破→色挿→絣全解→板巻→織り→検査と細かく分けると36通り(分け方によっては60通りにも)なります。
図案
大島紬の特徴は糸を染めてから織る先染めです
絣(経糸と緯糸が重なってできる点)を点描のようにしてあらわします。
図案の作成は大島紬の骨組みとなる大切なスタートの工程です。
最近ではデジタル化して、パソコンでの作業が主ですが、それ以前は手描きで、方眼紙に黙々と点を打っていたそうです。
整経
出来たばかりの絹糸は長さがバラバラなので…
ハエバタで、図案にあった織り上がりの密度(マルキ数)や風合いを考えながら糸の種類、太さ、量などを決めます。
整経した糸はのりばりといって、次の工程の絣締めをする準備をします。
16~20本の糸を束ねています。
一本一本が一反分の長さで、それぞれ柄の一部になります。
絣締め
先染めした糸を枠に繰り、整経(ハエバタ)された糸が糊張り(糊で固めた糸、天日干し)済みの糸でこの締めバタの作業に入ります。
図案に基づいてたてから綿糸を筬(おさ)に通しよこから絣糸を挿しこみ、締め上げていきます。締作業は平均になるよう締めないと次の泥染めの工程でムラ染めになります。柄を構成する重要な作業です。
図案を基に糊張りした糸の柄部分を織り込みます。
締めたところは染まらず、締めなかったところは染まり柄の素になります。大島紬はメインの柄を繰り返しレイアウトしているので、
一反分の糸をジグザグにおり、同じ柄のパターンを作っていきます。
染色
締めた糸や地糸(絵で言う背景の色)を染めます
代表的な染め方は泥染めです。
泥染めとはテーチ木(車輪梅シャリンバイ)のタンニン酸と泥の鉄分を結合させ、化学反応を起こすことで独特の渋い色を出す染め方です。
テーチ木の染料で20回以上染め、泥染をして乾燥、この工程を3~4回繰り返します。
窪田織物さんでは他にも、紫いも染め、 さねん染め、月桃(げっとう)、正藍染め、白正藍染めなどの染めの種類がありますが今回は屋久杉染めを見学。
屋久杉染め
自然保護上伐採が限られているので折れた屋久杉の断片を集め、数十時間煮沸騰した液で糸を媒染します。
虫がつかない、腐らない、水に強い、アロマ効果等が屋久杉染めの特徴です。
加工
織りに入る前の糸の加工のことをいいます。
色さし…染料の刷り込み ※色さしは後ほど恵織物さんで体験させていただきました。
目破り…色差しした後、締めた糸を解いていく
絣全解…色を差した後、締めた糸を取り除く
板巻…織り機1機分に分けた糸を、絣を揃えながら板に巻き込む
大島紬を作る工程で一番多いのがこの加工です。
上記以外にもたくさんあり、その分人の手や思いがかけられています。
織り
絣糸を図案通り配列する筬とおし
※上の写真は大島紬織物協同組合さんで見学した時の写真です。
職人さんが丹精込めて作った糸を、図案通りに織っていきます。
絣締めで出来た一点が集まり、柄を作ります。
織り終わったら厳しい検査があります。
これに通って初めて本場大島紬の証、旗が描かれた証紙が貼られるのです。
完成!
検査に通った反物は問屋さんに渡りますが、検査については次に訪問する大島紬織物協同組合さんでレポートしますね!
大島紬織物協同組合
続いて訪問したのは大島紬織物協同組合さん
織り上がった大島紬は本場大島紬織物協同組合の検査場で厳正な検査を受けます。合格、不合格の判定が旗印商標に明記されます。
目検で長さ不足、染ムラ、織ムラ、加工ミスなどのチェック
検査に合格すると張られる証紙。加工の違いが証紙を見ればわかります。
さてこれから恵大島紬織物株式会社さんへバスで移動です
恵大島紬織物株式会社
最後に見学したのが白恵泥を開発された恵大島紬織物株式会社さん。
恵大島紬織物さんは恵俊彰さんのご実家で、白恵泥はお祖父さまが開発特色許をとられた技法です。
通常、白大島は染料で染めていますが、恵大島紬織物さんでは「薩摩焼」の土として利用されている土を用いる白恵泥で染めています。
恵泥の特徴は
・しなやかで永久的
・黄ばみがつきにくい
・日光堅牢度が高い
・静電気が発生しにくい
・しわになりにくく、しわの回復率が従来のものより数倍良い
白泥染は、白薩摩の泥土を微粒子と粗粒子にわけ、微粒子の泥だけを取り出して染めたもの
こちらでは窪田織物さんでも見学した色挿し、刷り込み捺染を体験させていだだきました。
染めたむしろをお土産にいただきましたよ。
番外編
片ス(かたす)
・【絣糸1本:地糸3本】の計4本の繰り返しで、絣模様を表現する方法
・絣ひとつひとつがアルファベットの「T字型」に見えるのが特徴
・生産効率の点から、現在の主流となっています
一元(ひともと)
・【絣糸2本:地糸2本】の計4本の繰り返しで、絣模様を表現する方法
・絣ひとつひとつがくっきりとした「十字型」に見えるのが特徴
・片ス式の商品に比べて技術難易度が高く、高価
右がカタス、左が一元と呼ばれる絣です。T字(反対向いています:右)と手裏剣(左)が見えるでしょうか。大島紬は糸、色、絣、絣の大きさ、絣の密度、糸の密度など様々な違いが各反物に刻まれ、それらが一つの柄を構成します。
割り込み式
割り込み式で織られた大島は「割り込み絣」と 呼ばれます。 難しい技法で、熟練の織り手でも織れる人が限られています。
絣の作り方 : タテ絣糸2本×ヨコ絣糸2本、タテ地糸2本×ヨコ地糸2本、タテ絣糸1本×ヨコ絣糸1本、タテ地糸1本×ヨコ地糸1本、を繰り返す。 絣糸の数が変わるために絣合わせが難しい。
絣の見え方 : Tの字と十字が重なったような複雑で立体感のある絣絣糸が多く用いられるほど絣の密度が高くなり、模様も緻密に織り出されます。
この絣糸の数を表す単位には「マルキ」が用いられ、模様の緻密さの目安になっています。
亀甲柄に限っては、「亀甲」という単位が用いられています。
マルキ
「絣糸が使われている本数」=「マルキ」。
1マルキ=絣糸80本。数字が大きいほど、より細かい緻密な柄になります。
<経緯絣の場合>
通常、本場大島紬のタテ糸の総数は1,040本〜1,508本。
このうち「タテ絣糸がどれだけ用いられているか」によって「○マルキ」と呼ばれます。
5マルキ、7マルキ、9マルキ、12マルキがあります。
*実際には9マルキ=タテ絣糸768本で正確には9.6マルキ。7マルキ=576本で7.2マルキです。
<緯絣の場合>
本来マルキはタテ方向の絣糸の単位ですが、緯絣ではヨコ方向に置き換えてマルキが使用されます。
緯9マルキ、その他(緯5マルキ、緯7マルキ)があります。
大島紬は、多くの工程を熟練した職人さんの元、数ヶ月かけて生産される事がおわかりいただけたでしょうか。
そして職人さんの高齢化、継承者不足など存続が危ぶまれる状況です。ユーザーの私たちは作り手の想いもかみしめて身にまといたいですね
曻 美幸